はじめに
2021年、片頭痛の新薬が相次いで認可、発売されました。
具体的には、CGRP関連予防薬と呼ばれる薬剤でエムガルティ®、アジョビ®、アイモビーグ®の3剤を指します。
これらの薬剤がなぜ注目されているのか、これまでの薬剤とどのように違うのかをご紹介いたします。
簡潔に結論から申し上げますと、従来では「どう痛みを抑えるか」だった片頭痛薬が「いかに痛みを出さないか」というように予防的なアプローチに変わったというのがこの新薬の大きな特徴です。
片頭痛のメカニズム
そもそも「どのようなメカニズムで片頭痛が引き起こされるのか」ですが、実際のところ未だに解明されていないとされています。
しかしながら、三叉神経と呼ばれる神経からなんらかの理由でCGRPと呼ばれる物質が放出され、脳の硬膜と呼ばれる表面の覆っている膜がそれを受け取ると片頭痛が引き起こされるという「三叉神経血管説」がかなり信頼性の高い原因とされています。
※CGRPとは
CGRP(calcitonin gene-related peptide:カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は片頭痛の痛みの直接の原因とされているタンパク質
実際に、片頭痛の発作が起きていない時にCGRPを投与すると頭痛が誘発されたという臨床データが報告されています。
片頭痛が始まるときは、
三叉神経からCGRPが脳の硬膜に向けて放出
↓
硬膜がCGRPを受け取る
↓
炎症と血管拡張をおこし、その結果、痛み、嘔気、眠気を感じる
こちらが有力な片頭痛のメカニズムです。
薬の種類と効き方の違い
従来は片頭痛が出た後に服用する薬剤が主流でした。
具体的には、軽度~中等度の頭痛の場合にはアセトアミノフェン(カロナールなど)や非ステロイド系抗炎症薬(ロキソニンなど)、重度の頭痛でこれらの薬が効かない場合にはトリプタン系(イミグランなど)の処方を指します。
冒頭でも述べたように、新薬は予防薬です。
これらは、痛みが出る前に定期的に皮下注射にて投与することで24時間CGRPを阻害する働きをします。
CGRPを阻害するポイントは主に3回あり、そのどこで効くのかもそれぞれの薬の大きな特徴となります。
ポイント1 神経からC G R Pの分泌を抑制する
●各種トリプタン
イミグラン(一般名:スマトリプタン)、ゾーミッグ(一般名:ゾルミトリプタン)、マクサルト(一般名:リザトリプタン)、レルパックス(一般名:エレトリプタン)、アマージ(一般名:ナラトリプタン)
薬のタイプ:服用、点鼻(イミグラン)、皮下注射(イミグラン)
ポイント2 放出されたC G R Pの働きを抑える
このタイプの製剤は抗CGRPモノクローナル抗体製剤と呼ばれ、現在日本では2種類の薬剤が使用可能です。
●新薬エムガルティ(一般名ガルカネズマブ)
用法:皮下注投与
頻度:初回2本(240mg)注射、その後は1本(120mg)を1か月ごとに皮下注射
在宅自己注射:可能
●新薬アジョビ(一般名フレネズマブ)
用法:皮下注投与
頻度:4週間ごとに1本(225mg)または、1回3本(675mg)を12週間ごとに皮下注射
在宅自己注射:1本のみ可能
ポイント3 硬膜でCGRPを受け取らない
CGRPの受容器に蓋をする形でCGRPを阻害します。
●新薬アイモビーグ(一般名エレヌマブ)
用法:皮下注射
頻度:1回70㎎(1本)の投与(皮下注)/継続は4週に1回
在宅自己注射:可能
いずれの薬剤も1か月あたりの片頭痛日数の短縮、片頭痛にて日常生活に支障のあった日数の短縮などが臨床試験で認められ、高い予防効果が期待できます。
CGRP阻害が生体に与えうる影響
CGRPは頭痛を引き起こすだけの物質ではなく、さまざまな身体機能に関与します。
数年間の単位での CGRP 関連抗体の投与では問題となるような有害事象は生じないと考えられておりますが、以下の観点では注意喚起が必要との見方もあります。
①心血管系への影響
CGRPには、以下の作用があります。
・血圧上昇
・血管での酸化ストレスの発生を定常的に抑制
心血管系への長期の影響は慎重に見極める必要があると懸念されています。
②免疫機能への影響
CGRPには免疫機能へ関与していることも知られています。
T細胞のIL-9産生やalarmin(傷害を受けた細胞から放出され,Toll-like 受容体を介して免疫担当細胞を活性化させる分子の総称)誘導性のT 細胞サイトカイン産生に重要な役割を果たしています。
※T細胞サイトカインは、免疫細胞の活性化や機能抑制作用をもつタンパク質。
免疫を正常に働かせる役割がある。
T細胞サイトカインの産生が減少すると、有害な病原体を排除する働きが弱まるため免疫機能への影響も心配されます。
③組織保護機能への影響
CGRP は病的状態に暴露された際の組織保護効果を発揮しているというデータも報告されています。
具体的には、
・CGRPを無効化させたマウスの実験において、虚血性神経細胞死が増加する例、慢性両側総頸動脈脳動脈狭窄モデルで記憶障害が増悪する例
・加齢性網膜変性において、CGRPが悪影響を及ぼす物質を制御し保護的に作用する例
・化膿レンサ球菌(俗に言う溶連菌)が検知されると神経終末からCGRPが放出され阻害作用を示す例
終わりに
ガイドラインでは、片頭痛が月に2回以上あるいは6日以上ある場合には予防療法が推奨されています。
他にも、従来の薬では効果を感じられない方、一度の片頭痛発作が生活に支障をきたす方の新たな選択肢として本記事がご参考になれば幸いです。
予防療法を行う場合には、これらの薬剤の副作用がなければ3~6か月程度内服し、頭痛が軽減できれば薬の量を少しずつ減らしていくという経過となります。
CGRP関連予防薬に興味がある方は、頭痛専門医に相談をしましょう。
参考文献
CGRP 関連抗体による片頭痛の新規治療 臨床神経学 60 巻 10 号(2020:10)